非鉄金属鋳物製造業界のM&Aと企業価値評価

非鉄金属鋳物製造業界のM&Aと企業価値評価

近年、非鉄金属鋳物製造業界のM&Aが増えている。ここでは、非鉄金属鋳物製造業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、非鉄金属鋳物製造業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみたい。

M&Aを考える非鉄金属鋳物製造業界の概要

非鉄金属鋳物製造業界の市場環境

鋳物とは、金属を溶融し、鋳型に流し込んで作った製品をいいます。非鉄金属鋳物製造業とは、鋳鉄や鋼以外の鋳物を製造する事業者のことをいう。

ダイカストの市場規模は、2004年の5,508億円から2018年の6,408億円へ増加している。しかし、得意先である自動車業界に依存しており、今後は自動車の需要減少が続くことから、国内需要は減少傾向にあるものと考えられる。

ダイカスト以外の製品(非鉄金属素形材製造業)の市場規模は、2012年の9,922億円から2016年の1兆353億円に増加している。

非鉄金属鋳物製造業者は、大手自動車部品メーカーの下請け企業の位置づけにあるため、小規模な事業者が圧倒的に多数を占めている。収益性の低下に苦しむとともに、技術を持つ人材の高齢化という物題に直面している。

非鉄金属鋳物製造業界のビジネスモデル

非鉄金属鋳物製造業の製法は、ダイカストと砂型・精密鋳造法に大別される。

自動車向けの非鉄金属鋳物は、ダイカスト製法が採用されている。ダイカストとは、溶融金属を精密な金型に高圧力を加えて圧入することによって、高精度で鋳肌の優れた鋳物を大量生産する製造方法をいう。得意先が自動車メーカーであることから、工場は自動車メーカーの工場所在地近辺に集中している。また自動車メーカーがグローバルなコスト競争にさらされていることから、絶えず納入単価の引下げ要求があり、収益性が低下する傾向にある。

これに対して、砂型・精密鋳造法は、少量・高付加価値製品のための製造方法である。日本の非鉄金属鋳造技術は世界トップ水準であるため、高付加価値品の海外輸出が多くなっている。

非鉄金属鋳物製造業界M&Aで買い手候補となる企業

非鉄金属鋳物製造業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような企業が中心となって、最終需要者である自動車メーカーを頂点としたピラミッドの業界再編を進めていくことが想定される。

ダイカストであれば、リョービ、アーレスティ、それ以外であれば、メッツ、東京ダイカスト、日立金属、虹技、大和重工、中日本鋳工である。

非鉄金属鋳物製造業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで非鉄金属鋳物製造業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である自動車メーカーは、部品を継続して購入することもできる。

また、小規模事業者が単独では難しかった研究開発投資による高付加価値化や新技術開発よって、非鉄金属鋳物製造業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、工場の生産規模拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

非鉄金属鋳物製造業界M&Aで買収する買い手の注意点

非鉄金属鋳物製造業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

非鉄金属鋳物製造業は、生産設備と工場いう有形固定資産を抱えなければいけない。生産設備は、ダイカストマシン、金型、油圧装置とその制御装置である。それゆえ、生産設備が新製品に対応しているか、老朽化していないかを確かめることが必要となる。特に、金型が適切に保管されているか、現物を実査しなければいけない。

また、特許権などの知的財産権を所有している場合、その権利が侵害されていないか、適法に承継することができるか確認することが不可欠である。

非鉄金属鋳物製造業の事業性を評価する場合の注意点として、生産設備への投資である。継続的に更新投資が必要となるため、適切に修繕や買換えが行われているか、確かめる必要がある。

また、人手不足への対応として外国人研修生を受け入れているケースが多いので、在留資格取得など法令遵守が図られているかを確かめる必要がある。

非鉄金属鋳物製造業の買収で承継すべき経営資源

特許権などの法的な知的財産権はもちろん、技術力・研究開発力・品質管理能力といった無形資産が基本となる経営資源である。特に、日本の技術ノウハウは、ドイツと並んで世界トップ水準にある。これらの技術力を持つ職人を慎重に承継しなければいけない。

無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、非鉄金属鋳物製造業のM&Aを行う場合は、工場の技術者の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産と製造現場における人材の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

非鉄金属鋳物製造業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

非鉄金属鋳物製造業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、非鉄金属ダイカストの収益性について、売上高成長率は約10.2%である。また、粗利率は16.5%、営業利益率は4.3%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,932万円、1人当たり人件費は484万円となっている。また、ダイカスト以外の非鉄金属鋳物製造業の収益性について、売上高成長率は約24.7%(異常値の可能性あり)である。また、粗利率は17.8%、営業利益率は1.9%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,916万円、1人当たり人件費は485万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、非鉄金属鋳物製造業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.4~0.6倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は5~8倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば7%、急成長の新興企業であれば13%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.8~1.1であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、ダイカストではリョービ(5851)、アーレスティ(5852)、それ以外であれば、虹技(5603)、大和重工(5610)、中日本鋳工(6439)が挙げられる。

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