後継者による持株会社スキームが事業承継に有効なケース

後継者による持株会社スキームが事業承継に有効なケース

業績が好調で、翌期以降も黒字基調が継続すると予想される場合、将来的に株価が上昇して相続税負担が増加することは目に見えています。

このような場合、緊急避難として持株会社を設立することにより、将来の株価上昇を軽減することが可能となります。

持株会社によって株式を間接的に所有する

持株会社を設立すれば、個人株主の手から株式が離れます。つまり、事業会社の株式を直接所有していた状態から、持株会社を通じて事業会社の株式を間接的に所有している状態に変わります。

持株会社を通じて所有する状態では、株式の評価方法に違い出るのです。

すなわち、事業会社を間接保有にすると、直接保有にする場合よりも相続税負担を軽くすることができます。

純粋持株会社とする場合の株式評価

純粋持株会社とする場合には、相続税評価を行うときに株式保有特定会社となり、純資産価額によって評価されてしまいます。

この際、保有する子会社株式の時価と簿価との差額、すなわち、含み益部分について37%控除(2019年7月現在)が行われ、純資産価額を低く抑えることができます。

株式を直接所有するとき、「含み益」はすべてが課税対象となります。

ところが、持株会社を通じて株式を間接保有していると、事業会社の「含み益」は法人税等相当額37%が控除されて評価されるため、株式の評価額が低くなるのです。

ただし、持株会社の設立初年度は、事業会社の評価は取得価額です。すなわち、含み益が発生していない状態であるため、節税効果を生み出す必要はありません。

しかし、設立後、長期間にわたって事業会社が利益を計上すれば、含み益が発生します。そうすると、株式の相続税評価が上昇していきます。

この点、持株会社を間にはさむと、事業会社の株式評価の上昇は、持株会社の株式評価に反映されることになります。

そこで、持株会社の株式評価のタイミングで、法人税等相当額37%を控除することができれば、純粋持株会社の株価上昇を抑えることが可能となります。

これは長期間にわたって効果が生じる方法ですから、将来の利益計上が期待される会社であるば、早期に持株会社化しておくべきと言えます。

事業持株会社とする場合の株式評価

持株会社に事業を営ませるのは、子会社株式の総資産に占める割合を50%未満に引下げ、株式保有特定会社から外すためです。

投資用不動産を取得し、賃貸経営を行ってもよいでしょう。

これにより、持株会社の株式評価において、類似業種比準価額を適用できるようになります。類似業種比準価額は、一般的に純資産価額よりも低くなるため、株式評価が引下げられることになります。

持株会社化を実行するときには、賃貸不動産を保有させて事業会社に貸し付ける、人事・総務・経営企画などの管理部門のみ持株会社に残して事業会社と切り分けるなど、組織再編を行います。

持株会社化を行えば、このように株式の評価引下げの効果がありますが、これは「株式移転」や「会社分割」を使って新会社を作るスキームに限定されるものではありません。

「株式交換」を使って既存のグループ会社に株式を持たせて、持株会社を作り上げるスキームによっても同様の効果を得ることができます。

結局、オーナーが所有する事業会社の株式を、他社に移転させることによって、グループ内で親会社と子会社の関係を作ればよいということなのです。

オーナーが自社株式を現金に替えたい場合

企業オーナーが保有する自社株式を現金に替えたいと考えるときがあるでしょう。

たとえば、企業オーナーが、「まだ退職はできないから退職金はもらえない、しかし、元気なうちにある程度まとまったお金をもらって、自由に使いたい。」という考えるケースです。

もちろん、株式を発行会社に売却して(自己株式取得)、会社から現金を支払わせる方法もあります。

ただし、会社が自社株式を取得しようとする場合、株主総会の特別決議による承認が必要です。

一方、株主側では、株式譲渡に対する税務上の取扱いが問題となります。すなわち、発行法人による自己株式取得の場合、売り手側の株主の売却益が「みなし配当」となり、総合課税による所得税等が重く課されます。

そこで、所得税負担を軽くするため、発行会社ではないグループ会社に売却するという案が浮上します。

複数の会社のグループ経営を行っているのであれば、他社へ売却するのです。グループ会社へ売却するのであれば、売り手側の売却益に対する所得税は20%で済みます。

買い取らせる会社が多額の現金を所有しており、株式の購入資金が十分であれば、この方法を実行することができるでしょう。

結果として、株式を取得したグループ会社は、持株会社としての性格も持つことになります。

この際、グループ会社の株主を後継者としておくことができれば、株式を買取らせた結果として、結果的に企業オーナーから後継者への経営権の移転が実現します。事業承継も進めることになるのです。

親族に分散した株式を集約したい場合

もう一つ想定されるニーズは、親族間で株式が分散しているため、発行法人で自社株式を買取って集約したいというものです。

株式が親族に分散している状況は、相続時に問題となります。早めに解決しておきたいと思ったとき、思いつく案の一つが、発行法人による買取りです。

この点、自社株式の取得であれば、株式を手放すことに対して親族の合意も得やすい場合が多いよう。

ただし、その場合でも、株式を譲渡した株主に対する税務上の取扱いが問題となります。すなわち、発行法人による自己株式の買取りは、売り手側の売却益が「みなし配当」となり、総合課税による所得税等が重く課されます。

そこで、税負担を軽くするため、発行会社ではないグループ会社への売却案が浮上します。

グループ会社へ売却するのであれば、売り手側の売却益に対する所得税は20%で済みます。

結果として、グループ会社は持株会社としての性格を持つことになります。

この場合においても、株式を買い取らせるグループ会社の株主を後継者としておけば、株式を買取らせた結果として、分散していた株式を後継者へ集約させることができます。

親子会社間の資金移動は受取配当金の益金不算入を活用

持株会社が子会社である事業会社から配当を受ける場合、25%以上を6ヶ月継続保有すれば、その受取配当金が益金不算入になります。つまり、非課税で資金移動することが可能なのです。

また、株式買取りや組織再編の結果として生じた株式の相互持ち合いを解消したいという場合、自己株式の買取り行うことがあります。その際、株式を譲渡した法人の売却益は、益金では無くなり、「みなし配当」の益金不算入によって法人税負担を軽減できる場合があります。

事業承継対策は、相続税はもちろんですが、法人税、所得税なども総合的に検討して進めていく必要があるのです。

後継者を株主とした持株会社設立も可能

持株会社設立による株式承継対策を行う場合、既述のように、企業オーナーが自ら持株会社を設立することが効果的です。

ただし、それ以上に効果的な手段は、後継者が株主となって持株会社を設立することです。

持株会社の株式を現在の企業オーナーではなく後継者が所有していれば、株式の相続税対策を考える必要がなくなります。

すなわち、後継者の持株会社へ株式を譲渡することによって、企業オーナーの手から株式が離れることになり、相続財産に入ることは無くなります。つまり、自社株式が相続税とは無関係となり、株式承継対策が完了するのです。

その結果として、会社は、企業オーナーの相続税負担を気にする必要が無くなり、会社の業績アップに邁進することが可能となります。

もちろん、会社の株主が変更されるわけですから、株式の譲渡が必要となり、所得税等の負担が伴います。後継者は購入資金を用意しなければなりません。

しかし、健全な会社であれば、株式買取りに必要な資金を積極的に融資する銀行が多くあります。また、金融機関のほうからこの株式承継スキームが提案されるケースも多く見られます。

ただし、株式の譲渡代金としての現金を受け取った企業オーナーの相続税対策が問題があるため、これが最適な株式承継だと言うことはできません。

後継者への贈与ではなく売却を選択するケース

企業オーナーの株式承継の選択肢の一つとして、生前に贈与してしまう方法があります。相続時精算課税制度を適用すれば、税金を相続時に後払いすることになるため、一気に株式全部を移転してしまうやり方も効果的でしょう。

後継者が設立した持株会社に株式を売却すると、企業オーナーの手元に多額の現金が入ってしまうことから、死ぬまでにお金を使いきれなかったときには、相続税が課されてしまい問題となります。

しかし、生前贈与には致命的な問題点があるのです。それは、贈与した株式が相続時の遺産分割争いの対象となってしまうことです。

つまり、生前に贈与した株式は、相続時の遺産分割の際、遺留分算定の基礎に入ってしまい、遺留分減殺請求などのトラブルを発生させるおそれがあるのです。

そのような遺産分割の問題が発生するおそれがあるならば、後継者である推定相続人に株式を売却してしまう方法を採ることが効果的です。

その買取り資金の調達や、売却代金の相続税対策が問題となりますが、それ以上に後継者が会社を承継すること、それによって事業の存続・成長を図ることが重要です。

後継者以外の相続人に株式を相続させることは、会社経営を脅かすことにもなりかねません。後継者による株式承継を最優先に考えた場合の選択肢が、後継者に対する株式の売却ということになるのです。

株式を現金に替えて後継者ではない子供に与える

自社株式を後継者に売却することは、企業オーナーが株式を現金化することです。結果として、企業オーナーは多額の現金を手にします。

これについては相続税負担が問題とはなりますが、後継者以外の相続人に現金を相続させることで、遺産分割に係る親族間の争いを回避することができます。

後継者である相続人には、価値の高い自社株式を与えていたのですから、それと同等の現金を他の相続人に与えることが、公平な分け方となります。

事業を後継者に買い取らせる方法は2つあります。株式を買い取らせる方法と、一部の事業を買い取らせる方法です。事業を買い取らせる場合、後継者には受け皿となる法人が必要です。

会社全部を承継するのではなく、高収益部門など事業の一部のみを承継させようとするケースが多く見られます。この場合、後継者が設立した会社に対する事業譲渡又は【分社型新設分割+株式譲渡】によることになります。結果として、後継者による持株会社体制ができあがります。

株式買取りスキームを適用すべきケースは少ない

ここで説明したように、遺産分割争いが発生するおそれがあるケースには、後継者による株式買取りスキームを使うのです。

しかし、事業承継における株式承継で、後継者による株式買取りスキームを適用すべきケースは、あまり多くないかもしれません。ほとんどのケースは、経営承継円滑化法の贈与税の納税猶予制度を適用して、株式を贈与すべきです。子供ですから、株式の対価は無償でよいはずです。お金を支払わせる必要はないでしょう。

 

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