売却(M&A)の準備(1)~用意しておくべき資料は何か?

売却(M&A)の準備(1)~用意しておくべき資料は何か?

売却(M&A)に向けての情報の整備

親族外事業承継(M&A)によって第三者へ事業を売却する際には、売り手にとっての売却価格最大化という視点とともに、承継する買い手にとっての将来価値最大化という視点の双方を充足させなければなりません。そうしなければ、買い手が株価を高く評価してくれないからです。

そこで、対象会社の特徴や強み、事業戦略などを買い手に正しく理解してもらうことが必要です。以下の準備を行いましょう。

事業活動を定量化しておく

第一に、事業活動を定量化しておくことです。会社の財務内容を明瞭に把握できるようにするため、過去の決算書及び事業計画を整備することは基本となります。決算書や勘定明細はもちろん、そのデータの根拠となる内部管理資料も必要になります。

たとえば、小売業であれば店舗別や商品別の売上データ、製造業であれば製品別の売上や営業利益、開発・製造コスト、建設業であれば工事別の売上や粗利などの資料の整備が必要です。

買い手側の立場に立ってみると、定性的な情報だけでいくら買収を提案されたところで、本当に価値があるのか不安が残ります。買い手が安心して買収するためには、あらゆる事業活動を定量化しておくことが望まれます。

経営戦略を明確化しておく

第二に、経営戦略を明確化しておくことです。対象会社は、資金不足等の理由から、本来実施すべき設備投資を怠っていたり、人材採用や育成などが滞っていたりするケースがあります。実現できなった各種戦略や改善のための施策、及び施策を実行するために必要となる経営資源を明らかにすることで、事業の成長可能性がアピールできるでしょう。

事業価値源泉を明確化しておく

第三に、会社の事業価値源泉を明確化しておくことです。たとえば、買い手が事業会社ではなく投資ファンドとなる場合、投資ファンドは事業そのものの専門家ではないため、対象会社の事業価値源泉を理解することが容易ではありません。「人材の質が高い」といったような定性的な言葉で強みをアピールしても相手には適切に伝わらないでしょう。

事業価値源泉の明確化も定量的な裏づけをもって行うことが望ましいことです。人材が事業価値源泉というのであれば、その人材がもつ知識やノウハウ、資格などを具体的に示す準備を行うとともに、競合他社と比較して、どの程度優れているのかを定量的に表します。

たとえば、「○○資格の保有者が○人」や「○○○の製造経験10年以上の技術者が○人」、「○○に対して○億円の取引を受注している営業マンが○人」というように具体的かつ定量的に強みを相手に伝えるようにすると、理解してもらいやすくなります。

事業価値源泉を明確にすれば、売却価格の最大化につながるのです。

事業活動を定量化すること、経営戦略を明確にすること、事業価値源泉を明確にすることは、相応の手間と時間がかかります。しかし、親族外承継(M&A)で売却価格の最大化を実現するためには、必ず準備おくべきものなのです。

事業計画を作成しておく

事業計画とは、会社の事業戦略を実行した場合に予想される損益およびキャッシュ・フローの計画のことをいいます。この計画は、具体的には以下の要領に従って作成していくことになります。

顧問税理士が経営指導しているのであれば、過年度の業務を通じて財務内容を理解しているはずですから、事業計画についても的確なアドバイスを提供してもらえるはずでしょう。そのような指導を受けていない場合には、中小企業診断士に指導を依頼しましょう。

予想売上高

予想売上高(トップ・ライン)については、買い手候補から必ず詳細な質問が来ますので、製品・商品・サービスの単価および販売量を分解しておくことが不可欠です。

単価は、過去の趨勢や新商品投入に伴う旧商品の戦略的値下げなどを織り込みます。また、販売量に関しては、当該商品やサービスの市場規模、その市場における対象会社のシェアを予測することによって求めます。

もっとも、商品とサービスの将来性を一つ一つ予測することには無理があります。そのような場合、売上高全体、ないし、「地域」や「事業」といったセグメントごとの売上高の合計について、過去の業績分析の結果と将来のマクロ経済環境の見通しから、予測期間にわたって一定の成長率で推移するものと仮定して簡便的に算出することになります。

予想売上原価

予想売上原価については、売上原価(製造原価)に属する減価償却費とそれ以外の売上原価に区分し、それぞれ売上高に対する比率を見積もり、当該比率を各期の予想売上高に乗じて算出します。売上高に対する比率は、過去の業績分析の結果に関する検討を踏まえて決めることになります。

予想販売費および一般管理費

販売費および一般管理費の予想については、販売費および一般管理費に属する減価償却費、および、それ以外の販売費および一般管理費に区分し、それぞれ売上高に対する比率を見積もります。売上原価と同様、当該比率を各期の予想売上高に乗じて算出します。

固定費に大きな変動がある場合には、買い手候補からの質問の対象となりますので、事前に変動要因を説明できるように準備しておきましょう。大規模な投資案件を予定している場合には、変動する固定費の明細書を作っておくべきです。

予想減価償却費

買い手候補の価値評価において、EBITDAマルチプル(=企業価値/EBITDA)を使われることが多いため、売上原価の中に含まれる減価償却費と販管費の中に含まれる減価償却費の金額を算出しておきます。無形固定資産の減価償却費(ソフトウェア、のれん)も含まれますので注意しましょう。

予想営業外損益予測、特別損益

原則として、営業外損益と特別損益に関する予測数値の作成は不要です。
もし、合理化に伴う退職金支払い等の予定がある場合は、損益予測に織り込みます。また、固定資産の売却予定がある場合には、売却価額を損益予測に織り込むようにします。会計上の損失が多額になる場合には、それに伴う税効果も無視できないものとなるでしょう。

また、経常的に発生する営業外収益がある場合にはそれを明確にします。たとえば、事業用建物の遊休部分を賃貸して家賃を受け取っているケースです。このような営業外収益は、価値評価の際に、営業利益やEBITDAのプラス要因として加算されることになるからです。

設備投資計画

ほとんどの買い手候補はDCF法を使って価値評価を行いますので、損益予測の期間にわたって設備投資計画を作成しておく必要があります。
特に、経営再建のための大規模な事業再編、工場移転を予定している場合には、合理化の目的、設備投資の具体的内容・時期、コスト削減計画の詳細(予想される費用の減少額)について説明しなければなりません。

予想運転資本

これもDCF法による価値評価に必要な数値となりますので、債権回収や債務支払の決済条件の変更などを見込んで、将来の運転資本の予想残高を記載しておくとよいでしょう。

この数値を売り手から提出しない場合、買い手候補は、過去の業績分析で算出した運転資本対売上高比率(回転率、回転期間)を一定値と仮定し、予想売上高に乗じることによって計算します。その結果、運転資本がプラスの会社であれば、売上高が成長するにしたがって運転資本が増加するため、キャッシュ・フローが減少する予想になってしまいます。

想定問答集

買い手候補からの質問に対応するため、FA(M&Aアドバイザー)は、想定問答集を作っておきます。事業計画は、貴社の経営陣が考える事業戦略を数値に落とし込んだものであるため、経営陣が今後の事業の見通しをどのように考えたのか、買い手候補から詳しい説明を求められるでしょう。

事前に、根拠資料を用意し、説明ための理論構成を整理しておけば、買い手候補からの質問に的確に即答できることができ、事業計画の実現可能性をアピールすることができます。

この点、質問に対して、過去の実績値との整合性のある回答ができず、また、事業計画の数値と事業戦略の説明との間で矛盾が生じてはいけません。そのような回答を行った場合、買い手候補から計画の作成根拠が不十分であると思われ、事業計画の実現可能性に疑念を持たれてしまうからです。

事業計画を買い手候補に説明する際には、作成根拠だけでなく、買い手候補とのM&Aが実現した場合に期待されるシナジー効果を、売り手側から提案することも効果的です。シナジー効果は、買い手候補によるM&A株価の算定においてプラス要因として考慮されるため、売り手の考えるアイデアを積極的に提供するとよいでしょう

FA(M&Aアドバイザー)に提出する資料を用意する

FA(M&Aアドバイザー)を雇ったのであれば、以下のような資料を用意しておきましょう。FA(M&Aアドバイザー)に提出することになるからです。これらは、秘密保持契約を前提として、買い手候補に対して開示する情報となります。

従業員に見つからないように動く

これらの資料を用意する、経営者が日頃扱わないような細かい資料を社内で集めなければなりません。この点、実務の現場にほとんど顔を出さない社長が、突然の資料集めの動き回れば、「社長はどうしたのか?」と従業員から不審に思われてしまうかもしれません。資料集めは、週末に行うなど、慎重に行動しましょう。

以下の資料を基礎として、買い手候補に対して開示されるインフォメーション・メモランダムが作成されることとなります。

提出が必要となる開示資料リスト

【必ず必要なもの】
・会社案内パンフレット、製品・商品カタログ
・定款
・商業登記簿謄本
・不動産を所有していれば不動産登記簿謄本または固定資産税課税明細書
・株主名簿
・過去3期分の法人税申告書、決算書、勘定明細書
・直近の月次試算表
・直近の決算時の固定資産明細書
・退職金規程、退職給付債務の時価情報
・法人契約の生命保険の解約返戻金

【無ければ作成が必要なもの】
・商流図
・製品別・商品別(店舗別、販路別)売上高明細書
・仕入先明細書
・主要な知的財産権の一覧表、重要な許認可のリスト
・業界動向、経営方針、事業戦略の説明資料
・事業計画(将来5期分の予想売上高、営業利益、設備投資)
・本社・支店・工場・店舗など営業拠点の説明資料
・組織図(各部署毎の人数)
・工場の製造工程のチャート図
・役員全員の経歴書

財務情報については、決算書や申告書だけではなく、時価情報が必要となります。不動産や有価証券の時価情報は、FA(M&Aアドバイザー)が自ら調べることができますから、用意する必要はありません。会社で用意すべきものは、生命保険の解約返戻金、簿外となっている退職給付債務の時価などです。

また、買い手候補によるM&A株価の算定を可能とするため、将来3年~5年分の損益予測および投資計画が必要です。しかし、中小企業で事業計画をきちんと作っている経営者は少なく、多くの場合、FA(M&Aアドバイザー)が指導し、作り始めています。

その中でも特に、投資計画については、将来の収益性に大きく影響する重要な情報となりますので、詳細な項目まで予測しておきましょう。また、前向きな設備投資だけでなく、従業員の割増退職金や設備の撤去費用などのリストラ費用まで事業計画に織り込んでおくほうがよいでしょう。

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