相続で損したくない!相続税の正しい計算法と控除について事例別に解説

遺産を相続することになったが、相続税はどれくらい?借金も相続するのだろうかなど、相続の不安を抱える方も少なくありません。相続税の対象となる人や財産の種類、具体的な税額の正しい計算方法、税額控除を知れば、相続で損をしないことができ、不安も解消するはずです。

目次

相続税とは?

相続税の申告

相続税は、納税義務者の「申告」によって納付を行う国税です。申告が必要かは自分で判断する必要があり、必要に応じて、自分で手続きをしなければなりません。給与から源泉徴収されることも、納税通知が送られることもありません。

死亡した人の財産を、遺言や相続によって受け取った場合、もらった財産の価値を基準に、税金が課されます。ただし、財産の価値の合計額が、「基礎控除額」を超えない場合などは、課税されません。

ちなみに、国税庁の調べによると、亡くなった方の財産に相続税が課された割合は、2017年で8.3です。

財源確保のほか、富の集中を排除する「富の再分配」や、生前の所得について相続時に清算的に課税する「所得課税の補完」といった性格があります。

相続税の納税義務者

相続税は、遺言で財産をもらった個人や、法定相続で財産を受け取った法定相続人が納税義務者となります。

相続の法定相続人の条件と割合

被相続人が亡くなると同時に始まる相続開始時に、生存していることが第一条件です。配偶者以外は、被相続人と血のつながった「血族」であることが法定相続人の条件です。

配偶者」は、常に相続人になります。「」は、1順位の相続人です。養子や認知された子も相続人となります。ただし、税務上、法定相続人に含める養子の数には制限があります。実の子供がいる場合は、養子が1人まで、実の子供がいない場合は養子が2人まで認められます。

」は、2順位の相続人です。「兄弟姉妹」は、3順位の相続人です。第1順位と第2順位の相続人がだれもいない場合、相続人となります。

相続の割合は、配偶者と子どもが相続人の場合は、配偶者2分の1、子ども2分の1となります。配偶者と親が相続人の場合は、配偶者に3分の2、親に3分の1となります。

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1です。なお、子が2人以上、父母ともに存命、兄弟姉妹が2人以上などの場合は、それぞれ均等に分割されます。

相続放棄した人も法定相続人に含める

相続財産には、プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれます。このため、相続人が一切の財産を相続しない「相続放棄」を選ぶことが認められます。放棄を選択しても、税務上、法定相続人の数に含まれたままになります。

相続税のかかる財産

相続税のかかる財産には、本来の相続財産、みなし相続財産(生命保険金、退職手当金など)、相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産の3種類があります。

預貯金や不動産などのほか、営業権や特許権、著作権などの権利も、財産に含まれます。

また、生命保険金、退職手当金などは、被相続人が生きているうちに所有していた財産ではなく、死亡したことが原因で支払われます。死亡を原因として得ることになった財産は「みなし相続財産」と呼ばれ、課税対象です。

さらに、相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産も、課税の対象です。相続税が課税されるかどうかは、財産の名義にかかわらず、実質的に財産を管理していたのが被相続人であれば、課税の対象になります。

相続税のかからない財産

相続税がかからない財産としては、墓所、霊廟、祭具、これらに準ずるもの、生命保険金などのうち、非課税限度内の額、死亡退職手当金などうち、非課税限度内の額の3種類があります。

「みなし相続財産」となる死亡保険金や死亡退職金は、非課税限度額までは課税対象となりません。非課税限度額は、死亡保険金「500万円×法定相続人の数」、死亡退職金「500万円×法定相続人の数」とされています。

相続税の申告期限・納税期限は相続開始から10か月以内

相続税の申告は、遺産分割協議の終了後に申告と納税

相続税の申告と納税は、被相続人の死亡によって始まる相続開始を知った日の翌日から、10か月以内に行う必要があります。遺産分割協議の終了後に、申告と納税を行います。

10カ月の申告期限を越えてしまう場合は未分割申告して、後日修正申告

10カ月の申告期限がきても協議が整わない場合は、「未分割申告」と納税をしておきます。相続税の申告期限から3年以内に、分割方法が確定した時点で、修正申告を行うことができます。

ただし、未分割申告では、小規模宅地等の特例や、配偶者控除の税額軽減の特例が適用できないため、納税額が大きくなる可能性があることに注意が必要です。なお、修正申告をすれば、控除の適用を受けることができます。

相続税を計算する

相続税を計算する基本の式

相続税を算出する際には、課税対象となる財産の額を求めることが基本になります。これを、課税価格と呼びます。

課税価格は、「本来の財産+みなし財産+生前贈与-非課税財産-債務-葬式費用」として表されます。

課税対象となるのが、本来の相続財産、みなし相続財産、3年以内の生前贈与財産です。非課税財産となるのは、仏像や仏具、死亡保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額などです。また、借入金や未払金、租税公課などの債務や、葬式費用は課税対象とはなりません。

なお、葬儀の際に行われることも多い、初七日の法要については、葬式費用には含めることができません。

課税価格から控除すべきもの

相続税の課税価格も、そのまま税金計算の基になるわけではなく、いくつかの控除が適用される可能性があります。

基礎控除

課税価格から、基礎控除額と呼ばれる一定の控除を差し引いた残りの金額がゼロになれば、相続税は発生しません。また、残る金額がある場合は、残りの金額に対してだけ課税されます。

基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で表され、定額3,000万円に、法定相続人一人当たり600万円が加算されます。相続放棄がある場合でも、税額の計算上、法定相続人の人数は変更されません。

配偶者控除

相続人が配偶者の場合は、法定相続分と16,000万円を比べ、高い方の金額を「自分の相続額から控除」できます。したがって、配偶者は、少なくとも1億6,000万円の控除を受けることができます。

小規模宅地等の特例による減額

亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が、事業用や居住用にしていた宅地などを、遺言や相続によって取得した時は、相続税の軽減を受けることができます。

宅地などのうち330平方メートル(特定事業用宅地は400平方メートル)までの面積について、課税価格の計算上、評価額に一定の割合をかけた金額が減額されます。

居住用宅地は、配偶者や同居していた親族が引き続き居住する場合などで80%減額されます。また、それ以外は、事業用宅地の場合は、事業を引き続き営むなら80%、それ以外では50%の減額を受けることができます。

相続財産の評価

相続税を計算するときは、相続した財産ごとに価値が評価されることになります。預貯金なら、通帳で確認できますが、土地や建物の場合は個別に評価されます。また、株式など、これら以外の財産については、取引価格などを参考に評価されます。なお、財産の評価は、被相続人の死亡時点が基準になります。

宅地の評価

宅地の評価は、1筆ごとに、路線価方式または倍率方式で評価します。市街地の場合は、道路に面する宅地の路線価をもとに評価する「路線価方式」、市街地以外の場合は、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価する「倍率方式」になることが一般的です。

建物の評価

建物の評価は、実際の取引価格ではなく、固定資産税評価額が適用されます。固定資産税評価額は、毎年5月頃に市町村から送付される、納税通知書に記載されています。

具体例で控除を事例別に確認しよう!

相続税額の正しい求め方について、具体的に確認していきましょう。

【相続の具体例】

被相続人を山田さんとします。法定相続人は、妻、長男、長女の3人であることが、戸籍謄本により確定できました。法定の受け取れることができる割合は、妻が1/2、子2人で1/2のため、長男と長女は1/4ずつです。

不動産は、自宅土地5,000万円、自宅家屋2,500万円です。なお、自宅土地は、小規模宅地等の特例の適用要件を満たしています。預貯金は利息を含め3,500万円で、300万円の負債があります。

なお、加入していた生命保険から死亡保険金、職場からは死亡退職金が、それぞれ2,500万円支払われました。また、葬式費用に200万円がかかり、妻が負担しました。

実際の財産分割は、妻が自宅と死亡退職金を、長男は預貯金を相続し、借入金を返済します。また、長女は、死亡保険金を相続します。

相続税の正しい計算方法

税額は、それぞれの相続人が受け取った財産の額に基づいて課税されることが基本になりますが、実際の計算に当たっては、税の総額を求め、それを実際の割合によって割り振る方法で求めます。

相続税の課税価格の計算

まず、「本来の財産」+「みなし財産」+「生前贈与」-「非課税財産」-「債務」-「葬式費用」に当てはめます

小規模宅地等の特例と非課税限度額を当てはめ

山田さんの場合、本来の財産は、土地と家がそれぞれ5,000万円と2,500万円、預貯金が3,500万円です。土地は、小規模宅地の特例が適用されるため、80%減額されて1,000万円となり、本来の財産の課税総額は7,000万円です。

死亡保険金と退職金がそれぞれ2,500万円ですが、それぞれ「500万円×相続人の数」を非課税として控除できるため、1,500万円までは課税対象となりません。したがって、みなし財産の合計は、2,000万円です。

債務の300万円、葬式費用の200万円は、そのまま当てはめます。

当てはめた式は、「本来の財産7,000万円+みなし財産2,000万円―負債300万円―葬式費用200万円」で、8,500万円が課税価格となります。

基礎控除を差し引く

課税か非課税かは、総額から基礎控除額を差し引いた残額で確認することができます。

控除額は、定額3,000万円に、600万円×法定相続人の数を加えて計算し、合計4,800万円となります。この結果、税金の対象となる額は、総額8,500万円から控除額合計の4,800万円を差し引いて、3,700万円となります。

山田さんが残した財産は、自宅7,500万円、預貯金3,500万円、死亡保険金と退職金で5,000万円となります。合計すれば16,000万円の遺産は、控除額を差し引いた税金の対象となる遺産の総額でみると、3,700万円に減額されることが分かります。

課税対象となる財産の総額を法定相続分に分割

対象となる財産を決められた割合で分けます。

総額3,700万円を、1/2、長男1/4、長女1/4の法定割合で分けます。分割された額は、妻が1,850万円、長男と長女は、それぞれ925万円となります。

それぞれの法定相続分に対する相続税額を計算

合計の税額に税率をかけ、それぞれの税額を計算します。税率は、1,000万円以下が10%です。1,000万円を超え3,000万円以下は15%ですが、この場合は50万円の控除を差し引くことができます。

相続額は、妻が1,850万円、長男と長女がそれぞれ925万円であることから、妻は、1,850万円×税率15%-控除50万円で、税額228万円、長男と長女は、それぞれ925万円×10%で、税額93万円となります。1万円未満は四捨五入して計算します。

相続税額の合計額を計算

全員の相続税額を合計すると、相続税の総額が計算できます。総額は、228万円+長男93万円+長女93万円で、414万円となります。

実際に受取った割合で合計額を分け、実際の相続税額を計算

次に、税額の合計を実際に受け取った額の割合で分割すれば、それぞれの正しい税額が分かります。まず、受け取った額の割合を求めるために、それぞれが受け取った財産の課税価格を合計します。

妻の相続額は、自宅土地1,000万円+建物2,500万円+死亡退職金1,000万円の計から、葬式費用200万円を差引いて、合計4,300万円になります。

長男は、預貯金3,500万円―負債300万円で、合計3,200万円です。長女は、死亡保険金1,000万円です。課税総額は、8,500万円と一致します。

それぞれが受け取った額をもとに、課税の対象となる総額に対する、それぞれの割合を計算します。それぞれの割合の合計が1.0になるように、小数点第ニ位で端数を調整することができます。

妻は、4,300万円÷8,500万円で、端数を切り捨て0.50です。長男は、3,200万円÷8,500万円で、端数を切り上げ0.38、長女は、1,000万円÷8,500万円で、端数を切り上げ0.12と決めました。

税の総額414万円を、それぞれの相続人が受け取った額の割合で分割した額は、妻が414万円×0.50で、207万円、長男が414万円×0.381573千円、長女が414万円×0.12496千円となります。なお、千円未満は切捨てとなります。

それぞれの最終的な納付税額を、税額控除を適用して計算

それぞれの税額から、適用可能な控除額を差し引けば、最終的な納付税額を計算することができます。

なお、亡くなった方の配偶者、両親や子ども以外の場合は、計算した税額に20%を加算したあとの金額から、税額控除を行います。

配偶者の税額軽減の適用

山田さんの事例では、妻は少なくとも16千万円の税額軽減を適用することができます。このため、妻の納税額はゼロとなります。ただし、適用を受けるためには、申告が必要です。

長男と長女には、控除の適用がないため、納税額は、長男が157万3千円、長女が49万6千円となります。

そのほかの税額控除

税額控除には、これらのほか「暦年課税分の贈与税額控除」、「未成年者控除」、「障害者控除」などがあります。当てはまるものを順番に差引いていき、税額がゼロになった場合は終了します。

まとめ

相続税の額や借金の相続など、相続税についての不安を抱える方は少なくありません。しかしながら、遺産を譲り受けることになっても、基礎控除額以下であれば税金はかかりません。配偶者であれば、受け取った額から1億6,000万円まで差し引くことができます。

ただし、10カ月の申告期限に間に合わないと、適用されない控除もあることや、追徴課税されることに注意が必要です。

正しい計算法や適用される控除を知れば、税金の有無を確かめることや、税額を求めることができ、不安を解消することができます。なお、税率や控除の詳細などについては、国税庁のタックスアンサーで確認することができます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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