金型製造業界のM&Aと企業価値評価

金型製造業界のM&Aと企業価値評価

近年、金型製造業界のM&Aが増えている。ここでは、金型製造業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、金型製造業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみたい。

M&Aを考える金型製造業界の概要

金型製造業界の市場環境

金型とは、金属や非金属(プラスチックなど)を材料にして、同一形状の製品を大量生産するために用いる金属製の型をいう。

材料の加工方法として、金型製造業は、板状の材料をはさむ、押し付けることによって成形するダイと、溶かした材料や粉末の材料を流し込んで整形するモールドに大別される。

中国やタイなどアジア諸国からの輸入品と競合があるものの、高品質・高付加価値品を中心として、市場規模は拡大している。

経済産業省「工業統計表・産業別統計表(平成29年度)」によれば、金属用金型の総出荷額は、2011年の6,949億円から2016年の8,501億円に、非金属用金型の総出荷量は、2011年の4,202億円から2016年の5,233億円に増加している。

しかし、主要な得意先である自動車業界において、今後ますます電気自動車が普及すれば、部品点数が減少することが予想され、自動車メーカー向けの金型の需要は減少することが見込まれる。また、自動車メーカーの生産拠点の海外移転に伴って、金型を現地調達する傾向にあることから、国内の金型の需要が減少することが見込まれる。

昨今、国内の優良な金型メーカーが中国企業に買収される事例が出てきており、業界内でのM&A増える可能性がある。

各事業者の従業員数で見ると、従業員30人未満の企業が全体の約85%、従業員10人未満の企業が全体の約45%を占めており、業界のほとんどを中小零細企業が占めていう。これは、金型が単品受注製品であるため、規模の経済が働きにくいからである。

金型製造業界のビジネスモデル

金型製造業は、製造工程において得意先との密接な打ち合わせが必要となるため、得意先の所在地近隣に事業所を構えることになる。愛知と大阪に多数の事業所がある。

3次元CADなどNC装置の導入が進んできたものの、最終仕上げ工程は熟練技術者の経験と勘に異存する部分が多いことから、金型製造業は労働集約的な業態となっている。

金型製造業界M&Aで買い手候補となる企業

金型製造業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

菊池製作所、パンチ工業、冨士ダイス、不二精機、ニチダイ、鈴木、アークである。

また、日本の高い技術力を求める中国企業が多いことから、中国企業も有望な買い手候補となる。

金型製造業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで金型製造業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である自動車メーカーや電機メーカーは、高品質の金型を継続して購入することもできることができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったNC装置の投資によって、金型製造業の生産効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、工場の統廃合による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

金型製造業界M&Aで買収する買い手の注意点

金型製造業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

金型製造業では、鋼材の加工から仕上げまで、旋盤やフライス盤など金属工作機械が必要となり、また、品質と生産性向上のためにCADやCAMシステムが必要となる。よって、これらの生産設備やソフトウェアが老朽化してないか、適切に修繕や更新投資が行われているかどうか、確かめる必要がある。

金型製造業の事業性を評価する場合の注意点として、熟練労働者の能力を評価するとともに、技術者や技能者の確保と教育に取り組んでいるかどうかが重要なポイントとなる。

また、外国人労働者を活用しているケースがあることから、在留資格など法令遵守に関して注意が必要である。

金型製造業の買収で承継すべき経営資源

生産設備と熟練労働者の技術力が基本となる経営資源である。高齢化している熟練労働者は、事業承継のタイミングで退職し、社外流出してしまうことが多いため、金型製造業のM&Aを行う場合は、熟練労働者の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を確実に行うことが重要だろう。

金型製造業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

金型製造業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、金属用の金型製造業の収益性について、売上高成長率は約11.1%である。また、粗利率は21.8%、営業利益率は3.9%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,504万円、1人当たり人件費は531万円となっている。また、非金属用の金型製造業の収益性について、売上高成長率は約2.3%である。また、粗利率は23.4%、営業利益率は4.9%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,534万円、1人当たり人件費は541万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、金型製造業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は1.0~1.5倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は4~8倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば9%、急成長の新興企業であれば13%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが6%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が1.0~1.2であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、菊池製作所(3444)、パンチ工業(6165)、不二精機(6400)、ニチダイ(6467)、鈴木(6785)が挙げられる。

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