欧米の富裕層が資産管理に活用するファミリー・オフィスとは?

欧米の富裕層が資産管理に活用するファミリー・オフィスとは?

富裕層の方にとって資産承継は、様々なテーマが関連した複雑な問題となります。そのため、欧米の富裕層は、各分野の専門家を束ねたファミリーオフィスを組織して、資産承継を行っているのです。

崩壊するプライベートバンクの壁

これまでは、日本人に限らず世界の富裕層の資産の保管先といえば、スイスのプライベートバンクというのが常套手段でした。

これまでのスイスの銀行法は、国外の捜査当局を含めて第三者への口座情報の開示を禁じるという異例な法律であったため、スイスの銀行が実質的な脱税の隠れみのに利用されてきたというのが実態です。

フランスのルイ16世からフィリピンのマルコス大統領まで、秘密資金を預けた権力者は数多いといわれています。

しかしながら、2008年からの米国による強硬な追及の結果、2009年と2014年にスイスの大手銀行が脱税ほう助の罪を認め、巨額の罰金を支払うこととなりました。

2014年という年は、約300年続いたスイス金融の秘密主義の終焉を象徴する年となりました。スイスは、米国への口座情報の提供に応じることに加え、OECDが設ける情報交換制度にも加わることになりました。

日本で2014年より施行された「国外財産調書」ですが、提出義務があるにもかかわらず調書を提出していない人が相当数存在すると考えられます。調書の提出義務者は、推定9万人と見られていますが、制度開始2年目で、実際の提出件数は8千件しかないという状況です。

未提出者の中には、提出義務を認識していない人も多く含まれていると思われますが、金融口座情報の自動的交換制度が始まれば、無申告の国外財産が税務当局に捕捉され、追徴課税となるケースが多発する可能性もあるでしょう。

税務署に狙われる富裕層の資産

国外財産に続き、国内財産についても富裕層を狙い撃ちした財産捕捉のための新制度が始まっています。

2016年1月、「財産債務調査」制度が始まりました。その年の所得金額が2000万円を超え、かつ次のいずれかに該当する人が対象です。①財産の価額が3億円以上、②有価証券等の価額が1億円以上。国外財産調書制度と同様に、調書の提出・不提出により、過少申告加算税・無申告加算税の加減算措置が設けられています。ただし、本調書の不提出・虚偽記載については、現在のところ、国外財産調書のような特別な罰則規定は設けられていません。

もっとも、税務署には財産債務調書にかかる質問検査権が認められています。調書の提出義務があるのに故意に提出しなかったり、保有する財産の一部しか記載しなかったりするなどの不誠実な対応をした場合、税務署より「お尋ね」が届いたり、本格的な税務調査に及ぶ可能性も考えられます。

また、2016年から、マイナンバー制度が始まりました。マイナンバー制度は、社会保障や災害対策にも利用される制度とされていますが、特に富裕層にとっては、「納税者番号」としての側面が強いように思われます。

本制度の真の目的は、税務当局が自営業者や富裕層の毎年のフロー所得のみならず、財産(ストック)を把握するために創設された制度といってもいいかもしれません。

証券・金融取引を開始する場合、マイナンバーの告知が求められます。ただし既存口座の場合は、3年間の猶予期間が設けられています。

預貯金への付番(任意)は、早くて2020年からでしょう。金融機関には顧客情報をマイナンバーで検索可能な状態で保管する義務が課せられます。マイナンバーと銀行口座が紐付けられることによって、政府による個人資産の把握がより一層可能となります。

不動産の登記情報や自動車の登録情報とマイナンバーの紐づけも検討されています。こうした体制が整備されると、金融資産・不動産・高額の動産の一体課税も不可能ではなくなってしまいます。

ファミリーオフィスとは?

富裕層向けのプライベートバンクも以前として人気がありますが、「ファミリーオフィス」は、その上をいく「超富裕層」向けのサービスとなっています。

ファミリーオフィスとは、事業に成功した超富裕層が、自らの親族のために雇う専門家チームのことです。欧米では、資産家ファミリーの永続的な発展を目的として運営されるファミリーオフィスが多数存在します。

そのチームは、弁護士、税理士、投資顧問業者などから構成され、ファミリーのニーズに基づいて、財産保全と資産運用、会計税務、資産承継や相続税対策、教育や医療など親族が必要とするありとあらゆるサービスを提供します。人生のフルサポートを提供する内容となっているのです。

一族内の平和を保つために、運営担当者がファミリーの間に入り、議長のような役割を果たすこともあります。親族間の合意形成を支援します。たとえば、家業における役割分担やファミリーの憲法と言うべき「家憲」の制定です。

そして、企業経営しているのであれば、家業の支援、次世代の後継者育成までをサポートすることで、ファミリーの永続的な発展を目的として運営されます。

もともとは米国ではカーネギー財団やロックフェラー財団などの資産家の資産の保全・承継を目的に誕生したものであり、現在、米国では3000以上のファミリーオフィスが存在するといわれています。ヨーロッパでもスイスを中心にファミリー・オフィスが多数存在します。

ファミリー・オフィスの運用担当者の役割は、家族会議の運営、事業経営へのアドバイス、資産運用など多岐にわたります。資産運用では、金融資産だけでなく不動産も対象とし、ベンチャー投資など幅広い範囲に及びます。そして、健康や教育、寄付や慈善事業など、財産以外のサービスについてもサポートしています。

富裕層がファミリーオフィスの運営担当者に任せるのは、ファミリーの代理人であり、ゲートキーパーとしての役割です。富裕層には各方面の業者から様々な提案が持ち込まれます。保険、不動産、証券、銀行などです。これらに対応するのが運営担当者です。

世界的に見て、経済・地域社会の基盤を支えているのはファミリービジネスです。ファミリーによって所有・経営されている企業は、世界の企業数の約70%を占め、日本では約95%の企業がファミリービジネスとなっています。

私は日本でもファミリー・オフィスが必要とされる時代が到来したと考えています。ファミリー・オフィスと言えば海外の会社を連想される方もいると思いますが、日本特有の経済・金融・税制環境に精通している必要があること、顧客にとって文化的にも距離的にも近い必要があることから、日本版ファミリー・オフィスが求められていると考えています。

ファミリーオフィスとプライベートバンクの違い

富裕層の国であるスイスでは、一族が独立の法人を運営せず、専門的なサービスを外注するコマーシャル・ファミリーオフィスが提供されています。スイスのプライベートバンクは、金融資産運用以外にも多様な付随サービスを提供することから、コマーシャル・ファミリーオフィスの一種と考えることができます。

しかし、同じ金融機関(たとえば、UBS銀行など)であっても、スイス本国のサービスと日本のサービスは、まったく異なります。日本のプライベートバンクは、基本的に金融資産運用以外のサービスは提供していません。コンプライアンスの問題が厳しく、金融業以外の業務に手を出すことができないからです。税務はもちろん、不動産投資の助言すら行っていないのです。

したがって、スイスのプライベートバンクは、ファミリーオフィスの外注業者、日本のプライベートバンクは、単なる証券会社だと思っていただければよいでしょう。

ファミリーオフィスの種類

ファミリーオフィスは、シングル・ファミリーオフィスとマルチクライアント・ファミリーオフィスに大別されます。

シングル・ファミリーオフィスは、ある特定のファミリーだけにサービスを提供するものであるのに対して、マルチクライアント・ファミリーオフィスは複数のファミリーを顧客とするものです。

一般的に、財産規模が最低20億円程度なければシングル・ファミリーオフィスを運営するのは難しいと言われ、20億円に満たない場合には複数のファミリーをまとめたマルチクライアント・ファミリーオフィスが活用されることになります。

米国では、マルチ・ファミリーオフィスが4000社以上あると言われますが、日本にはファミリーオフィス自体がほとんど存在していません。

マルチクライアント・ファミリーオフィスとは?

ファミリーオフィスの元祖であるロックフェラー家やモルガン家など、米国ではファミリーオフィスが広がっています。米国のファミリーオフィスの資産規模は、100億円を超えるものと言われており、日本とは桁が違う様子です。

米国では、ファミリーオフィスを運営する担当者の人材不足、または、規模の経済を活かした資産運用を行うため、いくつものファミリーの資産を管理するマルチクライアント・ファミリーオフィスが主流となっています。ロックフェラー家も他の家族の資産を管理するマルチクライント・ファミリーオフィスです。

米国では有名なファミリーオフィスの存在から、富裕層一族がその繁栄が途絶えないようにプロの運営担当者を雇い入れ、万全を期している姿が浮かび上がってきます。財産を築き上げることと同様に、それを何世代にも渡って承継することにも尽力する抜け目のない姿勢が、富裕層の地位を確固たるものとするのでしょう。

ファミリーオフィスの金融資産運用は?

ファミリーオフィスに限らず、富裕層の資産運用の特徴は、一般投資家が購入することができない金融商品へ投資していることです。

たとえば、ドイツ銀行の劣後債、米ドル建てソフトバンク劣後社債など。最低購入単位が20万米ドル(2,000万円)といった外貨建て債券は、一般投資家には手が届く金額ではありません。プライベートバンクの母体は、外資系投資銀行ですから、こういった金融商品を海外の金融市場から仕入れてくることができるのです。

また、富裕層はオルタナティブ投資も行います。

オルタナティブ投資は、債券や株式ではなく、ヘッジ・ファンドや不動産ファンドなどのことです。また、デリバティブも対象となるため、株式や債券などでリターンが見込めない時でも、オプション取引や空売りなどの手法を用いれば、利益を追求することができます。ヘッジ・ファンドの手法には、「株式ロングショート」、「グローバル・マクロ」、「イベント・ドリブン」などがあります。

さらに、富裕層はプライベート・エクイティ投資も行います。

プライベート・エクイティとは、未上場企業の株式のことです。未上場企業の株式を取得し、企業の価値を上げてから他の会社にM&Aで売却する、上場させて売却するなど、一攫千金を狙った株式投資です。

ファミリーオフィスが運用する金融商品をどこで購入するか?

金融商品を購入する場合、その相手は、銀行や証券会社の営業マンよりも、外資系プライベート・バンカーや独立系のファイナンシャル・アドバイザー(Independent Financial Advisor,  IFA)と呼ばれる金融商品仲介業者のほうがよいでしょう。

欧米では、個人の公認会計士などが投資一任運用を行うことができる仕組みになっており、独立系の小規模な投資顧問業者(Registered Investment Advisor, RIA)がたくさん存在しています。例えば米国では、RIAが約1万6500社営業しており、そこに所属する営業マンが約3万人います。

日本では、米国RIAのような、投資一任運用を行うことができる小規模な投資顧問業者は数少ないのですが、金融商品仲介業者は徐々に増えてきています。

金融商品仲介業者とは、証券会社などの委託を受けて「有価証券の売買等の媒介」などを行う法人または個人です。

金融商品仲介業者は、複数の金融機関の中から運用商品を選ぶことができるため、多様な金融商品や運用方法の提案が期待できるといわれています。日本では、楽天証券、SBI証券などインターネット証券の仲介を行うため、証券会社で店頭販売される商品よりも、手数料や信託報酬が安い商品を購入することができます。

また、原則転勤や人事異動がないので、顧客と長期的な関係が構築できる点もメリットとなります。

ただし、インターネット証券は、ドル建て劣後債などプライベートバンクで人気を集めているような外国債券を取り扱うことができないため、ハイリスク・ハイリターンの投資を求める富裕層の期待には応えられません。

金融商品を購入するときに気をつけなければならないのは、金融商品の勧誘について、無登録の業者が存在していることです。また登録業者であっても、ヘッジファンドやオフショアファンドなど、金融庁への届け出のない商品の情報提供を行っている業者が存在していることもあります。取引を開始する前によく確認しておかなければなりません。

日本では公益財団法人がファミリー・オフィスの代わりに

日本の場合、ファミリーが公益財団法人を設立し、相続税負担を軽減させるために財産を移転しているケースが散見されます。

公益財団法人で財産管理を行っている場合、公益財団法人がファミリー・オフィスと同様の機能を果たしていると言えるでしょう。

ファミリーオフィスの運営担当者の役割は?

資産運用・資産承継プランニングと実践は個別性が高く、資産家が100人いたら100通りの解決策となります。

それは資産構成、金額、家族構成、リスク許容度等が違うためです。運営担当者による運営の巧拙によって、運用成果や節税額のに数千万円から数億円の違いが出てきます。それゆえ、プロの運営担当者に高額な報酬を支払っても十分メリットがあります。

運営担当者を選ぶときは、何よりもお客様の利益のために最適なアドバイスを提供してくれるかどうかという視点が必要になります。また、そのアドバイザーの能力・経験やコミュニケーション能力も重要な要素になります。当然ですが、そのアドバイザーが、長期的に支援を継続できるかどうかも確認すべきポイントです。

ファミリーオフィスの運営担当者の選び方

資産運用や資産承継をアドバイザーに任せてみたいと思った場合、どのような選択肢が考えられるでしょうか?ファミリー・オフィスのように、内部で専門家を雇う場合もあれば、プライベートバンクのように外部の金融機関から助言だけ提供してもらう場合もあります。

いずれにせよ、運営担当者を選定するポイントの一つは、儲かりそうな商品の話しばかりする人ではなく、資産規模、ライフステージ、リスク選好度など、お客様のプロフィールに合わせて商品選定やポートフォリオ設計してくれるかどうかという点です。「商品」というよりも、「プロセス」を重視する専門家です。

ポイントの2つ目は、金融資産に関する専門知識を持っているのはもちろんのこと、不動産、税金、できれば企業オーナーにとっての事業経営など、総合的な提案を行ってくれるかどうかという点です。

日本での動き(プライベートバンカー資格試験)

こうした現状を踏まえて、日本でも富裕層向けの資産コンサルタントを育成する動きが本格化してきました。例えば、2013年より公益社団法人日本証券アナリスト協会が、「プライベートバンカー(PB)資格試験」をスタートさせています。

PB資格は、金融業界やファイナンシャルプランナー(FP)、税理士・会計士向けに、資産の管理・運用、相続・事業承継アドバイスについての実践的スキルを取得させるための資格です。

また各金融機関でも、プライベートバンキング部やウェルスマネジメント部などの名称で専門部署を設置し、人材の育成やサービス向上のために経営資源を投入しています。特に対面型の証券会社を中心に、付加価値の高いコンサルティング的なサービスに重点を置く会社が増えてきました。しかし、金融機関の収益獲得を重視する姿勢、短期的に手数料を稼ごうとする姿勢は変わっていないようです。

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